Contents
- 1 はじめに──「スタンダードを読む」ということ
- 2 【解説①】基本情報と全体像
- 3 【解説②】沿革(歴史)
- 4 【解説③】一般外貌・重要な比率
- 5 【解説④】習性/気質
- 6 解説⑤】頭部
- 7 【解説⑥】顔部(鼻・マズル・口・歯・目・耳・首)
- 8 【解説⑦】ボディ(体幹構成)
- 9 【解説⑧】前躯(フォアクォーター)
- 10 【解説⑨】後躯(ハインドクォーター)
- 11 【解説⑩】歩様(Gait)
- 12 【解説⑪】皮膚(Skin)
- 13 【解説⑫】スムースヘアードの被毛(Smooth-Haired Coat)
- 14 【解説⑬】スムースヘアードの毛色・毛色のパターン(Smooth-Haired Color & Pattern)
- 15 【解説⑭】ワイアーヘアードの被毛(Wire-Haired Coat)
- 16 【解説⑮】ワイアーヘアードの毛色・毛色のパターン(Wire-Haired Color & Pattern)
- 17 【解説⑯】ロングヘアードの被毛(Long-Haired Coat)
- 18 【解説⑰】ロングヘアードの毛色・毛色のパターン
- 19 【解説⑱】サイズ(Chest Girth / サイズ規定)
- 20 【解説⑲】欠点・重大欠点(Faults & Severe Faults)
- 20.1 ■ 重大欠点とは──“健全性と機能性”を根本から損なう兆候
- 20.1.1 ■ 弱々しく、脚が長いもの/地面を這うようなボディ
- 20.1.2 ■ 歯の重大な欠損
- 20.1.3 ■ ダップル以外の毛色に見られるウォール・アイ
- 20.1.4 ■ 尖って、折りたたまれた耳
- 20.1.5 ■ 肩の間に沈んでいるボディ/ホロウ・バック/ローチ・バック
- 20.1.6 ■ 脆弱な腰(ウエスト)
- 20.1.7 ❖ 著しく高い後部(キ甲より臀部が高い)
- 20.1.8 ■ 脆弱な胸部/竪琴状に巻き上がっている脇腹
- 20.1.9 ■ 前躯・後躯の角度不足/筋肉が乏しく狭い後躯
- 20.1.10 ■ カウ・ホック/バレル・ホック/脚の内外向
- 20.1.11 ■ スプレイ・トウ
- 20.1.12 ■ 重く、ぎこちない、よろよろした歩様
- 20.2 ■ ペットとしては問題なくとも──“繁殖の羅針盤”としての欠点評価
- 21 【解説⑳】被毛の重大欠点(Severe Faults – Coat)
- 22 【解説㉑】失格(Disqualifying Faults)
- 23 ■ 全項目を読んでくださった皆さまへ──
はじめに──「スタンダードを読む」ということ
ダックスフンドという犬種の魅力は、単なる見た目の可愛さにとどまりません。
短く強靭な脚、しなやかに伸びた胴、警戒心と集中力の宿る表情──そのすべてに、「目的に適った美しさ」が宿っています。
本来、ダックスフンドとは“機能美の犬種”です。
アナグマなどの巣穴に潜り込み、時には獲物を追い、時には自らの判断で声を上げる。そうした狩猟犬としての能力を発揮できる構造・気質・動きが、長い年月をかけて育まれてきたのです。
そして、それらを守るために定められているのが、「FCIスタンダード」です。
これは単なる審査基準ではありません。
育種・育成・繁殖・選定・譲渡──そのすべてにおいて、“どんな犬を目指すべきか”という、世界共通の「理想像」を描いた設計図なのです。
しかし、このスタンダードは決して読みやすいものではありません。
独特な言い回し、訳語のニュアンス、そして実際の犬と照らし合わせたときの“解釈の幅”。
そこを誤解したまま、表面的な印象や流行に流されてしまっては、この犬種が本来持っている価値は失われてしまいます。
私たちシルトクレーテは、このスタンダードを一文一句、徹底的に読み解き、
長年にわたり数多くの犬たちと向き合いながら、その意味と本質を実践の中で検証してきました。
このページでは、FCIスタンダードの原文と、そこに込められた意図をもとに、
私たちなりの解釈と実践的視点を交えて、一つひとつ丁寧に解説してまいります。
【解説①】基本情報と全体像
FCIスタンダード No.:148
原産国:ドイツ
有効な公式スタンダードの公布日:2019年9月4日
用途:地上及び地下のためのハンティング・ドッグ
FCI分類:グループ4 ダックスフンド(ワーキング・トライアルあり)
◆シルトクレーテの視点による解説
なぜ「ドイツ」であることが重要なのか?
ダックスフンドという犬種は、「ドイツが生んだ唯一無二の猟犬」であり、この犬種のスタンダードはドイツが作り、ドイツが守ってきたという事実を、私たちは絶対に見失ってはなりません。
私たちシルトクレーテでは「ドイツ純血」を追求する根本理由がここにあります。
血統だけでなく、スタンダードの解釈、体の作り、精神性に至るまで、「ドイツの犬とは何か?」という問いに真剣に向き合い続けてきました。
グループ4という特別な分類
FCIの犬種分類において、ダックスフンドは単独でグループを構成している珍しい存在です(※グループ4)。これは、ダックスフンドがいかに独自の構造・用途・歴史を持っているかを示しています。
通常、猟犬は「セントハウンド(グループ6)」「ポインター・セター(グループ7)」「レトリーバー(グループ8)」などに分類されますが、ダックスフンドだけは“テッケル(Teckel)”という固有のグループ4に属しているのです。
つまり、ダックスフンドという犬種を理解するには、他犬種とはまったく異なる「独自の成り立ち」と「本質」を読み解く必要があります。
「地上」と「地下」両方のハンティング・ドッグ
スタンダードの用途欄には、「地上および地下」と明記されています。これは、ダックスフンドが穴に潜って獲物を追い詰める能力と、地上を走り回って追跡・追い出しを行う能力の両方を求められているということです。
つまり、体の作りも精神性も、単なるペット用の“かわいらしさ”とはまったく別次元の「機能性と実用性」が最優先されているということです。
■ シルトクレーテの繁殖方針
- 狩猟犬としての“本質”を守ることは、美しさを育てることでもある
- 地上と地下で活躍できる「理想的な構造」と「精神的バランス」を備えた個体のみを選抜
- 可愛いだけのペットタイプではなく、“真のダックスフンド像”を目指す
【解説②】沿革(歴史)
ダックスフンドはダッケルまたはテッケルとも呼ばれ、中世の時代より知られてきた。「Bracken(狩猟)」の時代から特に地下での狩猟に適した犬がしばしば繁殖されてきた。
ダックスフンドはこれらの短脚の犬から進化し、非常に用途の広い、有用な狩猟犬の一つとして公認されている。
この犬は地上に於いても素晴らしい能力を発揮し、獲物を狩り出したり負傷した獲物の捜索及び追跡を行う。
ダックスフンドの繁殖に熱心であった最古のクラブは1888年に創立された「Deutsche Teckelklub」である。
数十年間に亘り、ダックスフンドは3つのサイズ(テッケル、ミニチュア・テッケル、ラビット・テッケル)及び3つの異なる被毛バラエティー(スムース・ヘアード、ワイアー・ヘアード、ロング・ヘアード)ごとに繁殖されてきた。その結果、9つのバラエティーが存在する。
◆シルトクレーテの視点による解説
“Bracke”の血を受け継ぐ短脚猟犬
「Bracke(ブラッケ)」とは、ドイツ語で追跡猟に用いられる嗅覚ハウンドのこと。
本来は中~大型で、長脚・長躯の構造を持ち、野山を駆けて獲物の臭跡をたどり追い詰めることを得意とする犬たちです。
ダックスフンドは、このBrackeの流れを汲む血を受け継ぎながら、
穴に入るために「短脚化」された特別な猟犬です。
つまりダックスフンドは、
「嗅覚・追跡能力に優れた短脚化された猟犬」として生まれ、
“長脚ハウンドの本能と機能性”を内に宿した短脚犬だと理解すべきなのです。
この視点を持つことが、現代のペット化したダックス像から、
“本来あるべき犬種像”への理解と繁殖の軸を取り戻す第一歩になります。
地上でも地下でも活躍する万能型ハウンド
原文には「地下に適した犬から進化」とある一方で、
「地上でも優れた能力を発揮」と明記されています。
つまり、ダックスフンドは「穴に潜る能力」だけでなく、
地上での走行能力・嗅覚・スタミナ・判断力を兼ね備えていなければならないということです。
ペットとしての可愛らしさやサイズ感に目を奪われがちな現代でも、
スタンダードは明確に「有用な狩猟犬であること」を原点としています。
1888年の「Deutsche Teckelklub」創立と系統管理
19世紀末、ドイツで最初のテッケルクラブが設立されたことは、
実猟性能を備えた“機能的な個体”を選別し、系統的に繁殖していく仕組みが整ったことを意味します。
この流れを汲む私たちシルトクレーテでは、見た目の美しさやペット人気とは一線を画し、
「原産国の意図に沿った、真に使える構造と精神を持つ個体」の育成に重きを置いています。
・見た目だけでなく、“なぜこの形なのか”を理解した上で繁殖を設計する。
・動き・気質・体幹・集中力まで、ハウンドとしての「中身」を大切にする。
・“Brackeの血を宿す短脚犬”という原点に常に立ち返る。
9つのバラエティと、私たちのサイズ設計哲学
現代のダックスフンドは、被毛3種 × サイズ3種=全9バラエティとして確立されています。
しかしこの分類は、「犬質を守るために管理するためのもの」であり、形式を守ること自体が目的ではありません。
シルトクレーテでは、
- 異なる毛種間(例:ロング×スムースなど)の交配は一切行いません。
- しかし、同じ毛種内でのミニチュア×カニンヘンのサイズ交配は、犬質の維持・改良のために重要だと考えています。
- サイズだけを基準に選ぶのではなく、「骨格・精神・動き」を見極めた上で、慎重に設計し、“真に正しい犬”を未来へつなぐための選択として実施しています。
【解説③】一般外貌・重要な比率
一般外貌:地低く、短脚で、体長は細長いが、引き締まった体躯構成である。非常に筋肉質であり、向う気が強い頭部の保持と、警戒心に富んだ表情を見せる。その体躯構成により、地上及び地下で機敏に素早く作業することができる。性相は顕著である。
重要な比率:地面から胸底までの距離は体高の約3分の1である。体長(胸骨柄の先端から坐骨端まで)は体高に対し調和が取れており、約1:1.7〜1.8である。
◆シルトクレーテの視点による解説
地低く、しかし引き締まった体
ダックスフンドの外貌的特徴として最も強く印象に残るのは、「地に低く、胴長であること」ですが、
スタンダードではそれに加えて「引き締まった体躯構成である」ことが強調されています。
単に胴が長くて脚が短いという外見ではなく、機能性と筋肉質な締まりを兼ね備えた“働ける体”であること。
これが、私たちが追い求める「地低い美しさ」の本質です。
地上でも地下でも自由に動ける構造は、この“締まりと柔軟性”の両立によって支えられており、
ショーリング上での見映え以上に、動きの質や反応性に深く影響してきます。
向う気の強さと、警戒心に富んだ表情
「向う気の強さ」と「警戒心に富んだ表情」という記述は、外見の可愛らしさだけにとらわれてはいけないという、スタンダードからの明確なメッセージです。
この犬種は、本来狩猟の場で単独行動をするため、自分で状況を判断し、踏み込む勇気と意思を持つことが求められます。
それゆえ、ただ従順で可愛らしい性格ではなく、独立心・集中力・粘り強さを併せ持つ個性が、むしろ理想的です。
私たちが評価するのは、「自ら前に出ていく姿勢と、芯のある眼差し」です。
それが、構成や動きとともにその犬の“中身”を伝えてくれる要素だと考えています。
「重要な比率」とは何か
スタンダードにはっきりと、「重要な比率」として次の記述があります:
- 地面から胸底までの距離は体高の約1/3
- 体高:体長=1:1.7〜1.8
この比率は、単に見た目のバランスのためではなく、ダックスフンドという犬種の構造と機能を支える基本設計に他なりません。
特にシルトクレーテでは、以下のように捉えています:
- オスは1:1.7、メスは1:1.8が理想的な比率である
- なぜなら、同じ遺伝構成を持つ個体同士でも、構造的にメスの方が体長が長く出る傾向があるため
- これはブリーディングにおいても設計上の判断に直結し、“性差を考慮した繁殖”が質の高い次世代を生む鍵になると信じている
つまり、この比率はあくまで数字の話ではなく、
「正しい骨格構造」「自然な動き」「疲れにくい体」など、犬の実際の健全性を守るための目安」なのです。
スタンダードが「重要な比率」と明記しているということは、それだけ“守るべき根幹”であるということ。
シルトクレーテでは、この比率を「目指す」のではなく、「前提」として扱い、
一頭一頭の骨格構成や動きの質を丁寧に見極めた上で、正しく受け継がせる設計を大切にしています。
【解説④】習性/気質
習性/気質:生まれつき友好的で、落ち着きがあり、怖がりでも、攻撃的でもない。情熱的で、辛抱強く、優れた嗅覚を持ち、素早い狩猟を行う。
◆シルトクレーテの視点による解説
“扱いやすさ”ではなく、“仕事のできる気質”を
スタンダードは、ダックスフンドに求められる気質を、非常に簡潔かつ的確に表現しています。
まず「生まれつき友好的で、落ち着きがある」と書かれているように、無駄に神経質にならず、他者と調和できる内面の安定感が基本です。
そのうえで、「怖がりでも、攻撃的でもない」という言葉が続くのは、まさに本質を突いています。
つまり──
- 怖がって逃げるタイプでもなく、
- 感情に任せて突発的に攻撃するタイプでもない
この「中庸で理性的な精神」が、猟犬としての理想の性格です。
情熱と忍耐の同居
スタンダードが「情熱的で、辛抱強く」と続けている点は、特に見落とされがちな部分です。
これは非常に高度な性格バランスで、“集中した興奮”を持続できる精神力を意味しています。
興奮しすぎてもダメ。
冷めすぎてもダメ。
適度に燃えたまま、じっと構え続けられる犬。
これが「使える犬」「魅せる犬」に共通する核心です。
優れた嗅覚と、素早い狩猟性
ダックスフンドが嗅覚ハウンドとしての資質を持つことは言うまでもありませんが、
この「嗅覚の鋭さ」と「狩猟性(=仕事に入ったときの集中・スピード・切り替え力)」は、単に本能の問題ではありません。
実際には、その犬の精神の安定感・周囲との関係性・飼育環境での経験値によって、大きく差が出る部分です。
シルトクレーテでは、子犬の段階から「自信・好奇心・集中・判断」を引き出す育成を行っています。
それにより、単に“穏やかな子”ではなく、“信頼できる判断力を持った犬”へと成長させることができます。
“従順さ”ではなく“信頼に足る主体性”を
近年は「扱いやすい」「吠えない」「怖がらない」ことばかりが求められる風潮がありますが、
スタンダードが求めているのはそうした“都合のいい犬”ではありません。
むしろ、「行動の意味を理解し、自ら選んで動ける」「飼い主と共に判断できる」──
“パートナーとしての意思を持つ存在”であることが、何よりも大切です。
解説⑤】頭部
頭部:上望すると細長い。側望すると、鼻端に向かって均一に先細りになっていくが、尖らない。眉のリッジは明瞭である。鼻の軟骨と鼻梁は長細い。
頭蓋部:
スカル:かなり平らで、幅広過ぎず、僅かにアーチした鼻梁に次第に溶け込む。後頭部の隆起はあまり顕著ではない。
ストップ:僅かに判別できる。
◆シルトクレーテの視点による解説
“美しい頭部”とは何か
頭部は、犬の印象を決定づける極めて重要な部位です。
しかし、それは単に「可愛い顔をしているか」「バランスが取れているか」といった外観評価にとどまりません。
ダックスフンドの頭部には、本来「嗅覚・知性・集中・性格」が現れるべきです。
- 鼻が長いのは、優れた嗅覚器官を内包するため
- 額(スカル)は平らすぎず、かといってドーム状でもなく、理性的で冷静な精神の宿る構造
- ストップは「わずかに判別できる」──つまり、急激な凹みや強調は必要ない
こうした形状のすべてが、「嗅覚で獲物を探し、考えながら動く」犬種としての設計に基づいています。
“細くて長い”だけでは不十分
「上から見ると細長く」「横から見ると均一に細くなる」と記されていますが、これは単に細く長ければよいという意味ではありません。
例えば、極端に尖ったマズルは、咥える・保持する力に欠けます。
また、目の配置や額の広さ・幅によっては、全体として“頼りない印象”にもなり得ます。
私たちが求めるのは、「細く長く、なおかつ力強さと機能美を備えた頭部」。
頭部は飾りではなく、“考え、獲物を追い、仕留める”ための道具であることを、常に忘れてはなりません。
スカルと鼻梁の“滑らかなライン”
スタンダードが求めているのは、「極端に彫りの深い顔」でも「平坦な顔」でもなく、
スカルから鼻梁へと自然に流れる滑らかな構造です。
ここで重要になるのが「ストップ(額と鼻の段差)」の扱いです。
スタンダードには「僅かに判別できる」とあり、強調すべきでも、完全に消すべきでもありません。
ストップが深すぎると、目元が前に押し出され、やや感情的な印象を与えることがあります。
たとえば「怒っているような目つき」や「上目遣いで訴えかけるような眼差し」になりやすく、
本来求められる冷静さや中立性からは離れてしまいます。
逆に浅すぎれば、ぼんやりと覇気のない表情になり、知性や緊張感に乏しくなります。
シルトクレーテでは、ストップの深さはもちろん、スカル・眉・目・マズルの“表情の流れ”そのものを重視しています。
そこに「静かな自信と、前を見据える眼差し」があるか──それを、動きとともに評価します。
【解説⑥】顔部(鼻・マズル・口・歯・目・耳・首)
鼻:鼻孔は十分に発達している。
マズル:長く、十分幅広く、力強い。
唇:ぴったりと張っており、下顎を十分に覆っている。
顎/歯:顎は十分に発達している。しっかりと閉じるシザーズバイト。42本の完全な歯列が理想。
目:中位の大きさ、アーモンド型、友好的で鋭くない。ウォール・アイ、フィッシュ・アイ、パール・アイは望ましくないが許容される。
耳:高すぎず、前に向かず、頬に沿い、丸みと動きがある。
頸:十分な長さで筋肉質。喉の皮膚はぴったりとつき、自由に高く保持される。
◆シルトクレーテの視点による解説
鼻・マズル・口──狩猟のための“実用的な顔”
マズルが細長く、かつ力強くあるべき理由は、獲物を咥え、運び、保持する機能に基づいた構造であるからです。
鼻孔はしっかりと開いており、嗅覚ハウンドとしての情報処理能力を最大限に発揮できるつくりである必要があります。
見た目の美しさはこの機能の上に成り立っている、という視点を忘れないことが大切です。
顎と歯列──構造の中核を担う“見えない骨格設計”
理想は42本すべての歯が揃い、正確なシザーズバイトでかみ合っていること。
特に犬歯の位置関係は、マズル全体の構造や顎の発達と密接に関係しています。
「歯を見れば、その犬の全体構造がわかる」と言い切るにはやや慎重さが必要ですが、
顎のつくり、咬合の正確さ、歯列の詰まり具合などからは、その犬の骨格的完成度や将来的な安定性を読み取る手がかりが多く含まれています。
私たちは、歯列の完備だけでなく、歯の“質感”や“接触の強さ”まで確認しています。
目──感情より“精神性”と“集中力”を映す窓
スタンダードにある「エネルギッシュで、友好的で、鋭くはない」という表現は、まさにこの犬種の精神性を映し出す理想の目つきを示しています。
- アーモンド型で、眼球が保護されやすい構造であること
- 過度に丸くなく、可愛らしさよりも落ち着きと知性を感じさせること
- アイコンタクトに、“考える犬”としての奥行きがあること
なお、ウォール・アイ、フィッシュ・アイ、パール・アイといった淡い色調の眼は、特にダップルに見られる現象で、
視覚的には個性的に見えることもありますが、遺伝的背景や視覚的鋭敏さの面で慎重な扱いが必要とされ、スタンダードでも「望ましくないが許容される」としています。
耳──表情と精神を支える“柔らかく整ったパーツ”
耳付きが高すぎると硬さが出てしまい、低すぎると緩慢な印象になります。
理想は、頬に自然に沿って落ち着き、表情と体の動きに呼応するような、静かな可動性と質感のある耳。
この耳がきれいに仕上がっているかどうかで、その犬の「まとまり」や「整い方」が一目で伝わることさえあります。
首──「十分な長さで筋肉質」「自由に高く保持される」ことの意味
スタンダードには、頸について次のように明確に記されています。
「十分な長さで、筋肉質である。喉の皮膚はぴったりとつく。トップライン(首筋)はわずかにアーチし、自由に高く保持する。」
この記述には、単なる姿勢の良さを超えて、構造的・機能的・表現的な意味が込められています。
まず「十分な長さ」とは、体全体のバランスを支えるだけでなく、動きの中で前後の伸縮を自然に行うために不可欠な要素です。
首が短ければ、トップラインの流れは途切れ、前肢の可動域や頭部の保持に制限が生じます。
一方で過度に長すぎても不安定になり、構造全体の調和を欠きます。
「自由に高く保持する」という表現もまた、単に“首が上がっていればよい”という意味ではありません。
それは、筋肉に支えられ、かつ柔軟性を持って“自らの意思で高く保たれている状態”を意味します。
この状態が実現できる個体は、動きの中でも常に自信と集中を内に宿し、落ち着いた品格をにじませます。
さらに、首はダックスフンドという犬種において、構造的にも表現的にも非常に重要なパーツです。
首が正しく伸び、しっかりと高く保たれていることは、
地上作業における視界の確保や動きの安定、頭部の自由な可動性において欠かせません。
そのうえで、首は特に“エレガントさ”を強く表現する部位でもあります。
滑らかに伸びる首筋のラインは、気品・柔らかさ・滑らかさといった要素を自然に伝えることができ、トップラインから尾の先まで、ひとつながりの美しい流れを生み出します。
このように、首は単なる支柱ではなく、動き・印象・精神性すべてを映し出す“表現の核”であり、すべてのダックスフンドにとって、その正しい形と保持の仕方は極めて重要だと言えるでしょう。
【解説⑦】ボディ(体幹構成)
トップライン:頸から僅かに傾斜している臀部にかけて調和が取れている。
キ甲:顕著である。
背:高いキ甲の後方のトップラインは胸椎から後方にかけて真っ直ぐに伸びているか、わずかに傾斜している。堅固で、十分筋肉質である。
腰:頑丈で、幅広で、十分筋肉質である。
尻:幅広で、十分な長さがある。水平でもなければ、傾斜し過ぎてもいない。
胸:胸骨がよく発達し、突き出ているため、両側が僅かに窪んでいるように見られる。前望すると、胸郭はオーバル型である。上望及び側望すると広々としており、心臓及び肺が発達するのに十分な空間を与えている。肋骨は後方へ十分に伸びている。肩甲骨と上腕の正確な長さと角度により、側望すると前脚は胸骨のラインの最低点を覆っている。デューラップは顕著ではない。
アンダーライン及び腹部:僅かに巻き上がっている。胸は一連のラインで腹へと滑らかに繋がっている。
尾:調和を取りながらトップラインの延長線上に保持する。僅かに下降し、トップラインよりも上には保持しない。尾の最後の3分の1部分で僅かにカーブしているのは許容される。
◆シルトクレーテの視点による解説
■ トップライン
骨格構成の“答え合わせ”となる最終ライン
スタンダードはこう記します:
「頸から僅かに傾斜している臀部にかけて調和が取れている」
この一文が示すのは、全体構造の集大成としてのトップラインという考え方です。
つまり、美しいラインとは作るものではなく、正しく整った構造から自然と生まれるもの。
首のつき方、キ甲の高さ、背中の張り、腰の安定──
これらすべてが合致したときに、はじめて“流れるようなライン”が現れます。
シルトクレーテでは、トップラインを「その犬の骨格と育成の最終的な答え」と捉えています。
■ キ甲と背
可動と固定、動と静が交わる“重心の要”
キ甲(ウィザーズ)は、肩甲骨の頂点であり、「顕著であること」が求められています。
これは、肩の自由な可動と、首の安定した保持が両立していることの証です。
背線は、「真っ直ぐ、またはわずかに傾斜している」ことが理想ですが、
ここが“張りすぎる”と硬質で動きがなく、“緩みすぎる”と力が伝わりません。
必要なのは、「堅固さ」と「柔軟さ」が同居していること──
つまりブレず、しかししなやかに動ける背中こそ、理想の構造です。
■ 腰と尻
推進力の発生源であり、尾への起点でもある中核
腰は「頑丈・幅広・筋肉質」であることが求められますが、それは単に太く見せることではありません。
力を受け止め、変換し、伝える──この3つの役割をこなす場所こそが腰なのです。
尻においては「水平でもなく、傾斜し過ぎてもいない」──
つまり、後肢の可動範囲と踏み出し角度を自然に支える、絶妙な傾斜が必要です。
シルトクレーテでは、後躯の強さとしなやかさを最大限に引き出すため、
この尻の付け根から尾にかけての“最後の接点”にまで、繊細な調整を加えています。
■ 胸
体力、印象、安定感を決める“前方の中心核”
胸部の構造は詳細に記載されており、その全てが極めて重要です。
「胸骨がよく発達し、突き出ている」「胸郭はオーバル型」「肋骨は後方へ十分に伸びている」
これらの条件を満たす胸は、
- 前から見て引き締まった卵型(オーバル)
- 横から見て深く、肘をしっかり覆う
- 心肺機能を支える十分な容量を持つ
──という、機能性と外観美の融合体になります。
また、肋骨がしっかり後方まで伸びていることで、腹のラインが崩れず、肢の角度にも余裕が生まれます。
正面から見たときに感じる“力強く、洗練された印象”は、すべてこの胸構造から始まります。
■ アンダーラインと腹部
“過不足なく”が最も難しい領域
スタンダードでは、
「僅かに巻き上がっている」「胸は腹へと滑らかに繋がっている」
と、非常に控えめに書かれていますが、これは“目立ってはいけない構造”であることの証。
腹部が過度に巻き上がると、重心が高くなり“ダックスらしさ”が失われ、
逆に垂れすぎれば、だらしない印象や持久力の不安に繋がります。
重要なのは、「胸から腹、腹から腿」までの一連の流れに“切れ目”がないこと。
シルトクレーテでは、見た目以上にこの腹部構造の完成度を重視しています。
■ 尾
トップラインの“続き”として存在する、動きの軸線
スタンダードにはこう記されています:
「調和を取りながらトップラインの延長線上に保持する。僅かに下降し、トップラインよりも上には保持しない。尾の最後の3分の1部分で僅かにカーブしているのは許容される。」
この中で、もっとも正確に意識すべきは「トップラインの延長線上に保持する」という一文です。
一般には「尾が高く上がっていないか」が注目されがちですが、
本来の基準は“上がっていないこと”よりも、“下がりすぎず、トップラインの自然な延長として流れているか”という点にこそあります。
「トップラインよりも上には保持しない」──これは上限を定めた表現です。
しかし、「僅かに下降し…」という文言を過剰に解釈し、明らかに下がりすぎる尾──腰から真下へ落ち込むような尾の位置は、
“延長線上に保持する”という最も重要な要件を外していることになります。
尾の付け根は、腰からの流れの“出口”であり、全体の構造・力の伝達・精神性すらも表現する部位。
ここが緩く、垂れ、背線の延長から外れていれば、どれだけ他が整っていても、その犬の全体印象にブレが生じます。
■ シルトクレーテのこだわり──“高くも、低くもない”という難易度
尾の高さについて、シルトクレーテでは次のように考えています:
- 上がりすぎれば猟犬としての実用性を損なう
- 下がりすぎれば、構造の流れ・動きの質・完成度が落ちる
だからこそ、私たちは「延長線上」というたった一行の中に込められた、FCIスタンダードの本質的意図を深く読み取り、
「ギリギリのラインで美しく抑える尾」を日々追求しています。
尾は飾りではなく、「構造の最後の答え」。
トップラインから腰、尻、尾へとつながる一連の流れの中で、最後の締めくくりとして機能する尾のラインこそが、
その犬の全体完成度を静かに物語ります。
【解説⑧】前躯(フォアクォーター)
前 躯:一般外貌:筋骨たくましく、十分な角度がある。前望すると、すっきりとした(皮膚がぴったりついている)前脚は、頑丈な骨を持ち、真っ直ぐである。足は真っ直ぐ前を向いており、胸の最低点の下に位置している。
肩:筋肉は明瞭である。肩甲骨は長く傾斜し(上腕に対し約90度)、胸にぴったりと接している。
上 腕:肩甲骨と同じ長さで、肩甲骨に対しほぼ直角に位置する。骨は頑丈で、筋肉質で、肋骨にぴったりと接しているが、動きは自由である。
肘:内外向しない。
前 腕:短いが、地面からの距離はキ甲の高さの3分の1の長さはある。できるかぎり真っ直ぐである。
手 根:肩関節より僅かではあるが、より近くに接近している。
中 手:側望すると、棒立ちであったり、著しく前方に傾斜していたりしない。
前 足:指は緊握しており、頑丈で抵抗力があり十分なクッション性のあるパッドと、短く丈夫な爪を持ち、十分アーチしている。色は各毛色の記述を参照。5本目の指は何の機能も持たない。
◆シルトクレーテの視点による解説
■ 前躯全体
“支える”と“動く”が矛盾なく両立しているか
前躯は、「犬を地面に立たせる支柱」であると同時に、「動き出すときの起点」でもあります。
スタンダードでは「筋骨たくましく、十分な角度がある」と書かれていますが、これこそが静と動の両面を兼ね備えていることの要求です。
地面からの支持力と、前方へのストライド。
この両方を成立させるためには、骨の正確な角度と、筋肉のバランス、そして肩の自由さが必要不可欠です。
■ 肩と上腕
角度と長さが“動きを支配する”根幹構造
肩の項には、次のように明記されています:
「肩甲骨は長く傾斜し(上腕に対し約90度)、胸にぴったりと接している。」
つまり、肩甲骨と上腕の長さが同じで、かつほぼ直角を成していることが大前提です。
この条件が整って初めて、肘が正しい位置に降り、ストライドの起点が“後ろに流れない”構造になります。
さらに「自由に動く」ことも求められているため、骨の角度だけでなく、周囲の筋肉量や肋骨との関係性も見逃せません。
シルトクレーテでは、肘が胸の最低点をしっかり覆っているか、肩が立ちすぎていないかという視点で、育成段階から細かく観察・調整を続けています。
■ 前腕と中手
真っ直ぐであることは“美しさ”ではなく“機能性”
スタンダードにはこうあります:
「前脚は真っ直ぐである」「地面からの距離はキ甲の高さの3分の1」
ダックスフンドは短脚犬種ですが、ただ脚が短ければ良いわけではありません。
脚が曲がっていたり、ねじれていたりすれば、それは“品”を損なうだけでなく、地面への正確な力の伝達を妨げる重大な欠点となります。
中手に関しては、「棒立ちでも前傾でもない」ことが求められますが、これはつまり力を柔らかく逃がしながらも、確実に受け止める“バネ”の役割です。
シルトクレーテでは、日々の運動・地面との接触・筋肉の発達を通じて、真っ直ぐで強く、かつ柔らかさを持つ前肢構成を目指しています。
■ 足部(パウ)
接地性・耐久性・弾力──すべてが集まる“最後の接点”
スタンダードでは、
「指は緊握しており、頑丈で抵抗力があり、十分なクッション性のあるパッド」
──と明記されていますが、これはまさに着地と発進の性能を決定づける構造です。
足がしっかり握られている(アーチしている)ことは、
- 地面をつかむ力
- 衝撃の吸収力
- 滑らかで軽やかな歩様
──すべてに直結します。
【解説⑨】後躯(ハインドクォーター)
後 躯:一般外貌:筋骨たくましく、前躯と良く釣り合いが取れている。膝と飛節の角度はしっかりしている。後脚は平行で、互いに接近せず、また離れすぎてもいない。
大 腿:程よい長さで、筋肉質である。
膝:幅広く、力強く、十分な角度を持つ。
下 腿:短く、大腿とほぼ直角を成す。筋肉質である。
飛 節:力強く、腱は頑丈で、皮膚はぴったりついている。
中 足:比較的短く、下腿に向かって動く。僅かに前方に曲がっている。
後 足:4本の趾は緊握しており 、十分にアーチしている。頑丈なパッドの上にしっかりと立っている。
◆シルトクレーテの視点による解説
■ 後躯全体
“推進力を生み、後方から全身を押し出すエンジン部”
後躯は、ダックスフンドの機能性を語る上で極めて重要なパーツです。
前躯との「釣り合い(バランス)」が強調されている通り、前が強ければ後ろも同等に強くなくてはならないという構造的思想が貫かれています。
単に筋肉量があるだけでなく、角度・長さ・骨格の並びすべてが“推進力”に合理的であるかが評価されます。
■ 大腿と膝
角度があることで初めて“力を溜めて蹴り出す”構造が成立する
大腿部の筋肉質な張りは、「踏ん張りの力」と「地面を押す力」の両方を生み出します。
膝関節については「幅広く、力強く、十分な角度」と明記されており、
これは後躯全体の安定性と方向性の中心点であることを意味しています。
シルトクレーテでは、この膝の角度が「正面からどう見えるか」「後方からの収まり具合」「歩様への影響」までを含めて、立体的に評価しています。
■ 下腿と飛節
短く・強く・しなやかに──“ばね”の質が問われるセクション
下腿は「大腿と直角を成す」とされており、力が無駄なく伝わるためには、この直角構造と筋肉の発達の両立が必要不可欠です。
また、飛節(ホック)は「力強く、腱が頑丈で、皮膚がぴったりとついている」と明記されており、
ここがたるんでいたり、外向・内向していると、推進力が真っ直ぐ伝わらず、効率が大きく損なわれることになります。
■ 中足と後足
最後の接地で“動きの質”を決める最終着地点
中足は「僅かに前方に曲がっている」ことが理想とされており、これは単なる骨の角度ではなく、着地時の柔らかさ・衝撃吸収性・安定感を反映する設計です。
また、後足の4本の趾が「緊握しており、アーチしている」ことは、前足と同様に
- 地面をつかむ
- 着地時に踏ん張れる
- 継続的な運動に耐える
──という、走行性能と耐久性を保証する基本条件になります。
■ シルトクレーテの視点
「後ろ足がしっかり使える犬」は、尾が高くなりやすい──だが
後躯が強く使えるということは、骨盤の角度・筋肉の働き・推進方向がしっかりしている証です。
しかし同時に、犬の骨格構造上、後肢を強く蹴れるほど尾が上がりやすくなるという事実があります。
この矛盾に対して、シルトクレーテでは「構造の強さを保ちながら、尾の位置をギリギリで抑える」ことを追求し、
“構造・推進力・尾の調和”という高難度の設計美を目指しています。
【解説⑩】歩様(Gait)
歩様:グラウンド・カバリングに富み、流れるようでエネルギッシュである。あまり持ち上げることがない前肢は十分なストライドをもち、強力な推進力で、僅かな弾力性を伴いながらでバックラインへ伝えていく。尾はバックラインの延長線上で調和を取りながら保持し、僅かに傾斜している。前脚、後脚は平行な歩様である。
◆シルトクレーテの視点による解説
■ 歩様とは“構造の答え”であり、“育成の成果”
「歩様(Gait)」は、単なる動き方ではありません。
それは、構造的に正しく作られ、精神的に安定し、育成が的確であった結果として現れる“総合評価の結晶”です。
スタンダードは明確にこう述べています:
「グラウンド・カバリングに富み、流れるようでエネルギッシュである」
この一文に、ダックスフンドに求められる動きの核心が詰まっています。
■ 前肢は“持ち上げずに伸びる”──地面を撫でるような運び
「持ち上げることがない前肢」「十分なストライド」
──この表現が示すのは、前脚が高く跳ね上がったりせず、“前方へしなやかに伸びていく”ことが理想ということです。
跳ね上がりすぎる歩様は一見派手で目を引きますが、
実際には地面をしっかり掴んで前へ進む推進力には乏しい場合が多く、猟犬としての実用性からも外れてしまいます。
シルトクレーテでは、ストライドの「長さ」よりも「質」=滑らかさ・地面との密着性・重心の安定感を重視して見ています。
■ 後肢の推進力は“バックラインを通じて”全身へ伝わる
スタンダードは次のように続きます:
「強力な推進力で、僅かな弾力性を伴いながらでバックラインへ伝えていく」
ここでポイントなのは、推進力が直接的ではなく「弾力性をもって伝わる」という表現です。
これはつまり:
- 筋肉や腱が“突っ張る”のではなく“しなるように機能している”こと
- 背中が“堅すぎず、柔らかすぎず”、力の流れを適切に受け渡していること
- 動きの中に“流れるようなリズム”が感じられること
──といった、構造・筋肉・精神の三位一体による歩様を示しています。
■ 尾の保持は“動きの美しさ”を静かに裏打ちする
「尾はバックラインの延長線上で調和を取りながら保持し、僅かに傾斜している」
──この一文は、動きの中でも尾が暴れず、背線と一体になって見える状態を理想としていることを示しています。
前後肢がいくら良くても、尾がピンと上がりすぎていたり、左右に大きく振れるようでは、
“完成された犬の動き”とは見なされません。
尾は、あくまで構造と精神が整った犬だけが見せられる“静かな完成形”──
それが、シルトクレーテの歩様に対する哲学です。
■ “平行な歩様”が意味するもの
最後に示されているのは:
「前脚、後脚は平行な歩様である」
これは見た目の左右対称性という意味だけでなく、推進の方向性がブレず、無駄がないことを証明する動きです。
前足が左右に開いたり、後足がクロスしたりするのは、骨格の歪みや筋力バランスの不整を示すサインです。
シルトクレーテでは、「平行な歩様」は犬の内側の構造が正しく機能しているかどうかを見極める“動くレントゲン”だと捉えています。
【解説⑪】皮膚(Skin)
皮 膚:ぴったりしており、十分色素沈着している。色は各毛色の記述を参照。
◆シルトクレーテの視点による解説
■ 「皮膚がぴったりしている」とは──単なる張りではなく“質と密着性”の評価
この短い一文に含まれているのは、単なる肌触りや見た目の問題ではなく、
構造・被毛・筋肉・代謝すべての“内的健全性”が皮膚に現れるという視点です。
「皮膚がぴったりしている」とは:
- 皮膚がだぶつかず、体の輪郭に沿って自然に密着している
- 筋肉や骨格の流れを隠さず、美しく浮き立たせている
- 動きの中でもヨレたり波打ったりしない、適度な弾力を持っている
──といった、“犬という構造物の仕上げ”としての完成度を意味します。
■ 「色素沈着」は見た目だけの問題ではない
スタンダードには「十分色素沈着している」と明記されています。
これは単に「色が濃ければいい」ということではなく、
- 鼻、まぶた、パッド、爪の黒さ
- 皮膚そのものの色の深さ
- 目の周りや口の縁のくっきり感
──などを通じて、その犬が健康であり、代謝が良く、内臓機能や免疫が安定しているかという“体の内側”を測る重要なサインでもあります。
・色素の濃さ(鼻・アイライン・爪・皮膚などのメラニンの強さ)は、
内分泌・代謝・免疫など、体の基本的な健康状態の良好さを反映しています。
・特に古くからの猟犬種においては、色素が弱い個体は淘汰されやすく、
結果として“健全な個体群”には色素の強い個体が多く残っていったという背景があります。
・ドイツ系やヨーロッパの一部ブリーダーの間では、
色素の強さを「犬種本来の健全さ」や「原始的特徴の名残」として重視する傾向があり、
これは単なる“色”ではなく、“命の質”にかかわる重要な要素と捉えられています。
私たちシルトクレーテでもこの価値観を共有しており、
色素が正しく表現されていることを、犬種の完成度や内的な健全性の“静かな証”として大切にしています。
色素の濃さは単なる審査基準の一項目ではありません。
それは、犬の“内側”から湧き上がる、命の強さと原点へのつながりの証でもあるのです。
【解説⑫】スムースヘアードの被毛(Smooth-Haired Coat)
被 毛:短く、密生し、光沢があり、ぴったりと滑らかで、締まって、硬い。どこにも禿た箇所は見られない。尾はきめ細かい十分な毛で覆われているが、過度ではない。尾の下側のやや長い保護毛は欠点ではない。
■ スムースヘアードの「短毛」は、単なる“短さ”ではない
この項目で強調されているのは、ただ「短ければいい」というわけではなく、
- 密生していること(皮膚を守る役割を担う)
- 光沢があること(健康な皮膚・栄養状態・代謝の良さの証)
- ぴったりと滑らかであること(皮膚との密着性・構造の美しさを示す)
- 締まって硬いこと(野外作業に耐える保護性と質感)
といった、構造・質・健康・実用性のすべてを兼ね備えた“短毛の理想形”が求められていることに注目すべきです。
スムースヘアードは他の毛種よりも毛の密度と皮膚の露出感が高いため、骨格や筋肉の質、動きの美しさがより直接的に見えてしまうという特性があります。
つまり、被毛が“誤魔化しの効かない”毛種であるがゆえに、全体の完成度がそのまま毛に現れるといっても過言ではありません。
■ 「どこにも禿げた箇所がない」=育成・管理の証明
スムースヘアードの被毛は、短く滑らかでシンプルな分、わずかな欠点も即座に目に見えてしまうという特徴があります。
スタンダードに「禿げた箇所が見られない」とわざわざ明記されているのは、それがこの毛種において特に目立ちやすく、評価にも直結する重大なポイントだからです。
スムースはロングやワイアーに比べて皮膚トラブルの頻度自体は少ない傾向にあるかもしれませんが、その分、少しの脱毛や毛質の乱れが致命的に映ることがあります。
だからこそ、以下のような基礎管理の質が、如実に被毛に表れます:
- 成長期の栄養設計
- シャンプー剤の選定
- 湿度・摩擦などの環境コントロール
- アレルギーや皮膚疾患への予防的配慮
被毛にツヤがあり、毛の密度が均一で、どこにも抜けのないスムース──
それは「ただの美しさ」ではなく、健康と管理が内側から整っている証拠に他なりません。
■ 尾の毛について──「過度でない」「保護毛は欠点ではない」の意味
尾に関して記されている2つの表現:
- 「過度ではない」
- 「尾の下側のやや長い保護毛は欠点ではない」
これらは、過剰な飾り毛や長毛への変異を避けつつ、最低限の保護性は認めるという実用的かつ審美的なバランスを取ろうとするスタンスを示しています。
スムースヘアードの尾はあくまで滑らかに仕上がっているべきですが、多少の被毛の長さが機能的な意味で残っていることは許容される──それが「保護毛は欠点ではない」の意味です。
ただし、逆に尾の毛が明らかに少なかったり、部分的に薄かったりする個体は重大な欠点とされるため、注意が必要です。
■ シルトクレーテにおけるスムースヘアードへの視点
私たちシルトクレーテでは、スムースヘアードを「犬という構造物の完成度をもっともシンプルに映す毛種」だと考えています。
毛の“質”そのものが、
- 骨格や筋肉の作りの正しさ
- 育成期の環境と栄養管理
- 皮膚や代謝の健全性
- そしてブリーディングの思想
──そのすべてを語る「無言の証言者」である以上、“毛を見る”とは“犬の本質を見る”ことにほかなりません。
見た目の派手さではなく、触れたときの密度と張り、毛の流れに宿る“静かな美しさ”こそが、スムースの真の魅力なのです。
【解説⑬】スムースヘアードの毛色・毛色のパターン(Smooth-Haired Color & Pattern)
毛色及び毛色のパターン:
a)単色: レッド。散在した黒い毛は許容される。しかしながら、混じりけのない濃い毛色が望ましい。小さなホワイトの斑(直径3cm以下)は胸にある場合のみ許容される。鼻、爪及びパッドはブラックで、レディッシュ・ブラウンは望ましくない。
b)2色: 濃いブラックまたはブラウン、それぞれに目の上、マズル及び唇の側面、耳の内縁、前胸、脚の内側及び後ろ側、足、肛門回りとそこから尾の下側3分の1もしくは半分にタン・マーキング(より濃く、できるだけ混じりけのない方が良い)がある。鼻、爪及びパッドは、地色がブラックの犬に於いてはブラックで、地色がブラウンの犬に於いてはブラウンである。小さなホワイトの斑(直径3cm以下)は胸にある場合のみ許容される。タン・マーキングが広範囲に散在していたり、不十分なものは非常に望ましくない。
c)ダップル(マール): 地色は常に濃い(ブラックまたはブラウン)。レッド・ダップル(レッドの地色にダークな小斑があるもの)は例外である。不規則なグレーまたはベージュの小斑が望ましい(大きい斑は望ましくない)。濃い色も明るい色も優勢であってはならない。鼻、爪及びパッドについてはa)及びb)を参照。
d)ブリンドル: レッドの地色にダークなブリンドル(濃い縞)がある。鼻、爪及びパッドはブラックである。
上記以外の毛色及び毛色パターンは失格である。色素が欠乏しているものは非常に望ましくない。
■ 単色(a):レッドという“純粋性”と“深み”の表現
スムースヘアードにおける単色レッドは、もっとも原始的で純粋な印象を与える毛色です。
「混じりけのない濃い毛色が望ましい」とある通り、“深く染み込んだような赤”が理想とされており、明るすぎるレディッシュ・イエローや色あせた印象の薄赤は望ましくありません。
また、散在する黒毛は許容されるものの、全体の印象としては「抜けのない濃厚なレッド」であるべき──この毛色の完成度は、色素の強さと代謝の健全性を裏付ける要素でもあります。
鼻・パッド・爪はすべてブラックであることがスタンダードに明記されており、色素の完全性が強く求められている毛色です。
■ 二色(b):ブラックタン/チョコタン──コントラストの妙
2色のスムースヘアードに求められるのは、明瞭で美しいコントラストです。
ポイントとなるのは:
- タンの位置が正確であること(目の上、口元、脚、肛門周り、尾の下部など)
- タンの色が濃く、混じりけがないこと(明るすぎたり、ぼけた印象は不可)
- タンのサイズが適正であること(マズル部分で言えば3分の1程度)
- 散在や不完全なタンは大きな減点対象となる
ブラックタンやブラウンタンは、視覚的なインパクトが強い分、配色の正確性と質感において高い完成度が求められる毛色です。
特にスムースの場合、毛が短くツヤがあるため、タンの境界や色の濃淡が非常に目立ちやすい──だからこそ、「混じりけのない」という表現がここでも重要になってくるのです。
■ ダップル(c):美しさと構造が両立した個体だけが許される
ダップル(マール)は、見た目の美しさが注目されがちですが、本来は“色素の不安定性”を孕んだパターンでもあります。
だからこそスタンダードでは、
- 地色は必ず濃色(ブラックまたはブラウン)であること
- 斑は不規則で小さく、大きすぎるものはNG
- 濃色と明色がバランス良く存在すること(どちらかが優勢になってはならない)
と、かなり細かい指定がなされているのです。
これは、ダップル特有の視覚・聴覚への遺伝的リスクを防ぎながら、健全で構造的に美しい個体を残すための知恵ともいえます。
■ ブリンドル(d):縞模様という“野性味”を宿す例外的な魅力
ブリンドルは、レッド地に濃い縞模様が走るパターンであり、ダックスフンドではやや珍しい存在です。
この毛色は、野性味と力強さを表現する要素を持ち、シンプルなレッドとはまた異なる魅力を放ちます。
しかしながら、模様が曖昧だったり、縞が濃く出すぎてブラックタンのように見える個体は評価が難しく、ブリンドルとしての識別性と均整が求められます。
■ 「色素が欠乏しているものは非常に望ましくない」
この一文が最後に添えられていることの意味は重く、スタンダードが「色は装飾ではなく、健康と機能の証」として位置づけている証です。
色素の薄い鼻やパッド、爪は、内分泌や免疫・皮膚の脆弱性を示す可能性があるため、健全性という観点からも評価が下がります。
■ シルトクレーテにおける“毛色を見る”という視点
私たちシルトクレーテでは、毛色を“見た目”ではなく、“内側からにじみ出る健全性と気品”として捉えています。
色素の充実度は、単に「美しさ」のためではありません。それは──
- 栄養が行き届いているか
- 肝臓や腸、代謝系が安定しているか
- 原始的な狩猟本能や機能性が残っているか
──といった生命の根源的な質を測る“鏡”でもあります。
派手さではなく、正しく、深く、安定した色。それこそが、本物の血統と命の完成度を映す色なのです。
【解説⑭】ワイアーヘアードの被毛(Wire-Haired Coat)
被 毛:
毛:マズル、眉及び耳を除き、完全に均一に密着していて、下毛のある針金状の密生したトップ・コートを持つ。頭部の柔らかい毛(トップ・ノット)及び足の柔らかい毛は非常に望ましくない。マズルに明瞭な髭がある。眉は繁茂している。耳の被毛はボディより短く、ほぼ滑らかである。尾は十分に均等に密生した被毛で覆われている。
■ 「針金状の密生したトップコート」とは──外界から身を守る機能毛
ワイアーヘアード最大の特徴である「針金状の被毛」は、
本来激しい藪漕ぎ・地中での作業に耐えるための“天然の鎧”として機能していました。
そのため、この毛種における理想的な被毛は:
- 均一に密生している(スカスカしていない)
- 密な下毛(アンダーコート)を伴っている
- 皮膚に密着しており、外に飛び出したような毛はない
- 毛質が“針金のように硬く”、簡単に折れたり寝たりしない
──といった、機能性・耐久性・密度・手触りの4点すべてが高水準で揃っていることが求められます。
ここに“美しさ”を見出すには、ワイアーという毛種に対する深い理解と鑑賞眼が必要です。
■ トップノット・足の柔らかい毛は「非常に望ましくない」
頭部に“ふわふわした長毛”が出てしまう個体がいますが、これはワイアーヘアードの毛種としての純度が低下しているサインでもあり、明確に減点対象です。
- 頭頂部(トップノット)に柔毛が出る
- 脚の飾り毛が伸びすぎて“ロング”のように見える
- 被毛がウェービーまたはカールしている
──こうした特徴を持つ個体は、ワイアーとしての本質を失っていると評価されます。
特に「柔らかい毛」は、ダートや水分を吸収しやすく、皮膚炎の原因にもなるため、機能的にも好ましくありません。
■ ワイアーの顔を象徴する“髭”と“眉”
一方で、髭と眉の存在はワイアーヘアードの大きなアイデンティティです。
- 髭は「マズルの表現力」を豊かにし、犬らしさを引き立てる
- 繁茂した眉は「表情の奥行き」と「気迫」を演出する
特にドイツ本国や北欧諸国では、顔の造形美こそワイアーの命とも言われるほど、
この“荒々しくも威厳ある風貌”が重要視されています。
眉と髭が貧弱な個体は、どれほど構造が良くても印象が弱くなり、
「らしさに欠ける」と判断されがちなのです。
■ 耳と尾の毛──「調和と清潔感」がポイント
- 耳は「ボディより短く」「ほぼ滑らか」であること
- 尾は「均等に密生している」が、「長すぎたり飾り毛風ではない」
これらは被毛の種類としての一貫性と調和を担保するための記述です。
耳に長毛が残ると、ロングヘアーのように見えてしまい、ワイアーとしての印象が損なわれます。
尾に関しても、フラッグテール(旗のような飾り毛)が出てしまうと、被毛タイプの判別が難しくなるため、スタンダードでははっきりと線引きがされています。
■ シルトクレーテの視点──「手を加えずとも、完成されているワイアーが理想」
ワイアーヘアードという毛種には、確かに一定の技術(プラッキングなど)が求められます。
けれど、私たちシルトクレーテが本当に理想とするのは──
“手を加えなくても、美しく、機能的に完成された被毛”を持つ個体
です。
本来、ワイアーの被毛は:
- 下毛と針金状のトップコートが自然に均衡し、
- 外界に対する耐性を備えながら、
- 身体の輪郭をなめらかに引き立て、
- トリミングに頼らずとも十分に整っている
──そんな“完成された素材”であるべきだと考えています。
もちろん、適切な手入れや被毛の調整が必要になる場面もあります。
しかし、過剰な演出や技術で“ごまかす”のではなく、素材そのものが理想に近いこと。
それが、ブリーディングの完成度の証であり、ワイアーという毛種本来の魅力なのです。
また、ワイアーの被毛は構造を隠すものではありません。
むしろ密着した毛質により、骨格や筋肉のラインが明瞭に見えるため、犬そのものの完成度が露わになります。
だからこそ、ワイアーとは──
素材の質で勝負する毛種。
「削り出された構造美」を包み込む、“機能美の鎧”。
シルトクレーテでは、そう捉えています。
【解説⑮】ワイアーヘアードの毛色・毛色のパターン(Wire-Haired Color & Pattern)
毛色及び毛色のパターン:
a)単色: レッド。散在した黒い毛は許容される。しかしながら、混じりけのない濃い毛色が望ましい。小さなホワイトの斑(直径3cm以下)は胸にある場合のみ許容される。鼻、爪及びパッドはブラックで、レディッシュ・ブラウンは望ましくない。
b)マルチ・カラー:
ワイルド・ボア(イノシシ色)、ブラウン・ワイルド・ボア、ブラック・アンド・タン、ブラウン・アンド・タン。
目の上、マズル及び唇の側面、耳の内縁、前胸、脚の内側及び後ろ側、足、肛門回りとそこから尾の下側3分の1もしくは半分にタン・マーキング(より濃く、できるだけ混じりけのない方が良い)がある。鼻、爪及びパッドは、地色がワイルド・ボア及びブラック・アンド・タンの犬においてはブラックで、地色がブラウン・ワイルド・ボア及びブラウン・アンド・タンの犬においてはブラウンである。小さなホワイトの斑(直径3cm以下)は胸にある場合のみ許容される。タン・マーキングが広範囲に散在していたり、不十分なものは非常に望ましくない。c)ダップル(マール): 毛色はa)及びb)で記述されたものと同様である。地色は常に濃い(ワイルド・ボア、ブラックまたはブラウン)。レッド・ダップル(レッドの地色にダークな小斑があるもの)は例外である。不規則なグレーまたはベージュの小斑が望ましい。濃い色も明るい色も優勢であってはならない。鼻、爪及びパッドについてはa)及びb)を参照。
d)ブリンドル: レッドの地色にダークなブリンドル(濃い縞)がある。鼻、爪及びパッドはブラックである。
上記以外の毛色および毛色パターンは失格である。色素が欠乏しているものは非常に望ましくない。
■ ワイアーヘアードにおける“毛色”とは、自然・野性・機能美の象徴
ワイアーの毛色においては、単なる美しさや華やかさではなく、
「自然界に溶け込みながらも際立つ、機能性と本能の表現」が求められます。
特に代表的な「ワイルド・ボア(イノシシ色)」は、ダックスフンドという犬種の本来の姿──
森の中で音もなく獲物を追う、鋭く力強い猟犬のイメージと強く結びついています。
■ a)単色(レッド)──密度と深さが問われる毛色
ワイアーにおけるレッドは、ロングやスムースのそれとは少し異なる“硬質な赤”として表現されることが理想です。
- 混じりけのない、濃く深い赤
- 黒毛の混在は許容される
- 鼻・爪・パッドはブラックが望ましく、赤茶系(レディッシュ・ブラウン)は評価を下げる
この毛色は、構造・皮膚・代謝すべての健全さが“色と毛の密度”に現れやすく、
赤でありながら、野生的な風格や逞しさを兼ね備えていることが望まれます。
■ b)マルチカラー:ワイルド・ボア系とタン・マーキングの調和
ワイアーヘアードの最大の特色は、この「ワイルド・ボア」カラーにあります。
- ワイルド・ボア(ブラックを基調に複雑な色調が混ざる)
- ブラウン・ワイルド・ボア(チョコレートベース)
- ブラック&タン / ブラウン&タン(タン・マーキングの位置と濃さが重要)
タン・マーキングの配置は、猟犬としての表情・力強さ・バランスを整える重要な要素です。
位置が曖昧だったり、広がりすぎているものは“荒れた印象”を与え、評価が下がります。
また、ワイルド・ボアの微妙な色調は、季節・被毛の状態・管理の質によって大きく印象が変わるため、
常に最良の状態で保たれているかどうかが、ブリーディングと育成管理の実力を映し出します。
■ c)ダップル(マール)──慎重な扱いが求められる美しさ
ワイルド・ボアを基調としたダップルは、非常に美しく個性的な見た目を生みますが、
遺伝的なリスク(聴覚や視覚の異常)との背中合わせでもあるため、繁殖には高い責任が伴います。
スタンダードでも、
- 斑は「不規則かつ小さめ」であること
- 明色と暗色のバランスが取れていること
- 明るすぎず・濃すぎず、いずれも“優勢”であってはならない
といった明確な制限が設けられており、
見た目の華やかさに惑わされず、構造・健全性・色素の強さがすべて揃っていることが求められます。
■ d)ブリンドル──赤に刻まれる“原始の縞模様”
レッドの地にダークな縞模様が走るブリンドルは、野生的な印象と力強い存在感を持ちます。
しかしながら、ダックスフンドにおけるブリンドルはやや珍しく、
明確な縞として判別できない個体や、タンマーキングとの境界が曖昧な個体は評価が難しくなります。
理想は、レッドの地に整った濃い縞模様がくっきりと浮かび上がる状態であり、
その際も、鼻・パッド・爪はブラックであることが前提です。
■ シルトクレーテの視点──「毛色は、命の深層を語るもの」
私たちシルトクレーテでは、毛色を“装飾”ではなく、
「命の健全性、品格、そして原点とのつながりを映す深層の表現」
として捉えています。
特にワイアーヘアードは、被毛の質感だけでなく、その色合いの深さ・混じり気のなさ・均整のとれたマーキングにおいて、
「どこまで本来の姿に近づけているか」が問われる毛種です。
ワイルド・ボアの奥に宿る“猟犬の本能”、
深いレッドの中に光る“健やかな内臓の強さ”、
静かなタン・マーキングの配置に感じる“完成された構造と気品”。
それらすべてが合わさって、初めて本物のワイアーヘアードらしさが現れると、私たちは考えています。
【解説⑯】ロングヘアードの被毛(Long-Haired Coat)
被 毛:
毛:平坦で光沢がある。下毛を持ち、ボディにぴったりと接している。喉の部分と、ボディの下部でより長くなっている。耳の毛は耳の下端を越えて伸びていなくてはならない。脚の後部に明確な飾り毛がある。尾の下側の毛が最も長く、完全なフラッグを形成する。
■ 「平坦で光沢がある」──毛の“質感”がロングの命
ロングヘアードの最大の魅力は、何といってもその「質感」です。
- 毛はまっすぐで、うねりやカールがない
- ツヤがあり、自然な光を受けて輝くような被毛
- 全体に“なめらかで柔らかく、それでいて張りがある”
──これらが揃ってはじめて、「ロングらしさ」が成立します。
ただ長ければよいわけではなく、毛そのものの美しさ=命の健やかさの表現であるという意識が重要です。
■ 「下毛を持ち、ボディにぴったりと接している」──理想の密着性と構造の調和
ロングヘアードで軽視されがちなのが、“密着性”の概念です。
本来、ロングヘアードの被毛は:
- 下毛(アンダーコート)があり、
- トップコートが流れながらも体に沿って密着している
という二層構造で成り立っています。
これにより、毛が自然に流れても“構造のラインが見える”ことが理想であり、
被毛が浮きすぎたり、バサついたり、厚すぎて体を隠してしまうようでは、スタンダードから外れてしまいます。
■ 耳・脚・尾──飾り毛の長さと美しさに意味がある
ロングヘアードにおける飾り毛は、構造美と精神性を引き立てる“静かな装飾”です。特に、耳・脚・尾に関しては、次のような基準と注意点があります。
耳:
「耳の下端を越えて伸びていなくてはならない」とスタンダードに明記されていますが、この基準を満たしていない個体を見かけます。
本来は、耳の毛が下に自然と流れ、エレガントさと気品をそっと添えるような存在であるべきです。
脚の後部:
明確な飾り毛があることで、動きに柔らかさと流れを与えます。
構造と連動して揺れる毛の様子は、まさにロングならではの魅力の一つです。
尾:
尾の下側の毛は「最も長く」、完全なフラッグを形成していることが理想。
ただし、毛が重すぎて尾の構造を覆い隠したり、下がってしまうようでは本末転倒です。
“長さ”よりも、“軽やかに揺れながらラインを活かすこと”が求められます。
■ シルトクレーテの視点──「柔らかさと密度のバランスが、ロングの命」
ロングヘアードは、その流れるような被毛とツヤやかさによって、ひときわ目を引く毛種です。
けれども、私たちシルトクレーテが重視しているのは、その内面にある“質”と“調和”──
つまり、単なる見た目の華やかさではなく、「体のつくり」「動き」「毛の質感」がすべて連動していることです。
- 骨格や筋肉に沿って、被毛がなめらかに密着していること
- 健康な皮膚や代謝が、毛のツヤやしなやかさとして現れていること
- 動きに合わせて、毛がまとまりながら自然に揺れること
これらが揃ってこそ、ロングヘアードという毛種が本来持つ“静かな美しさ”が立ち上がってきます。
また、ここで見逃してはならないのが──
“体質と被毛の長さには密接な関係がある”という点です。
若いうちから被毛が過剰に伸びる個体は、体質が緩く、動きに張りがなく、弾力が目立つ傾向があります。
一見、気品にあふれて見えるかもしれません。
けれども、そこに“猟犬としての資質”が感じられなければ、それは本来のロングヘアードとは言えないのです。
ロングという毛種には、「エレガントであってほしい」という願いがあります。
しかしそのエレガンスとは、飾り立てた豪華さではなく、正しく整った体の上にだけ自然に現れる、気品・滑らかさ・柔らかさ。
それは“静かな優雅さ”であり、猟犬としての健全さとバランスが整っていてこそ表現されるものです。
したがって、私たちは常にこう考えます──
動きの質、体のしなやかさ、被毛の質と長さ。
その三つが絶妙なバランスで一体となったとき、
初めて“正しいロングヘアード”と呼べる。
飾らず、削らず、ありのままで美しいこと。
それが、シルトクレーテが目指すロングヘアードのあり方です。
【解説⑰】ロングヘアードの毛色・毛色のパターン
毛色及び毛色のパターン:
a)単色:レッド。レッドの地色にブラックのオーバーコート。しかしながら、混じりけのない濃い毛色が望ましい。小さなホワイトの斑(直径3cm以下)は胸にある場合は許容される。鼻、爪及びパッドはブラックで、レディッシュ・ブラウンは望ましくない。
b)2色:濃いブラックまたはブラウン、それぞれに目の上、マズル及び唇の側面、耳の内縁、前胸、脚の内側及び後ろ側、足、肛門回りとそこから尾の下側3分の1もしくは半分にタン・マーキング(より濃く、できるだけ混じりけのない方が良い)がある。鼻、爪及びパッドは地色がブラックの犬に於いてはブラックで、地色がブラウンの犬に於いてはブラウンである。小さなホワイトの斑(直径3cm以下)は胸にある場合のみ許容される。タン・マーキングが広範囲に散在していたり、不十分なものは非常に望ましくない。
c)ダップル(マール):地色は常に濃い(ブラックまたはブラウン)。レッド・ダップル(レッドの地色にダークな小斑があるもの)は例外である。不規則なグレーまたはベージュの小斑が望ましい(大きい斑は望ましくない)。濃い色も明るい色も優勢であってはならない。鼻、爪及びパッドについては a)及び b)を参照。
d)ブリンドル:レッドの地色にダークなブリンドル(濃い縞)がある。鼻、爪及びパッドはブラックである。
上記以外の毛色および毛色パターンは失格である。色素が欠乏しているものは非常に望ましくない。
■ ロングヘアードの毛色は、「深さ」と「気品」の表現
ロングヘアードにおいて被毛の“色”は、ただの視覚的印象にとどまらず、精神性・体質・バランスをも映し出す大切な要素です。
特にこの毛種では、色の深みと滑らかさが、気品や奥行きのある表情と直結するため、単なる彩色では済まされない“格”が求められます。
■ a)単色(レッド)──「本質の強さ」が滲み出る深みの赤
ロングヘアードにおけるレッドは、気品と力強さ、そして精神性の高さを兼ね備えた、最も象徴的な毛色といえます。
地色としての赤がしっかりと存在し、そこにブラックのオーバーコートが軽やかに重なる個体では、「赤の深み」と「黒の陰影」が交差することで、落ち着いた強さと静かな存在感が醸し出されます。
一方で、混じりけのない濃いレッド一色の個体も、スタンダード上ではむしろ理想的とされる評価があります。濃く純度の高いレッドは、命の充実感・代謝の健やかさ・本来の血の色を想起させる美しさを備えており、非常に高く評価されます。
逆に、色が薄くレディッシュ・イエローに見える個体や、全体が退色してイエロー寄りになった個体は、構造の緩さや生命力の弱さを印象づけることがあり、評価を下げる要因となります。
■ b)2色(ブラックタン/ブラウンタン)──構造と毛色のコントラストが鍵
ロングのブラックタンやブラウンタンは、構造と被毛が調和していることが評価のポイントになります。
- タンの位置が明瞭かつ正確であること(目の上・マズル・胸・脚など)
- 色味が濃く、境界線が曖昧でないこと
- タンのサイズが適正であること(マズル部分で言えば3分の1程度)
- 毛の長さによってマーキングが隠れすぎていないこと
ロングの場合、被毛が流れることでタンマーキングが隠れやすいため、過剰な飾り毛やコートがコントラストを損ねていないかにも注意が必要です。
色と構造が引き立て合ってこそ、正しい2色の美しさが成立します。
■ c)ダップル(マール)──軽やかな斑と構造の調和
ロングのダップルは、毛の流れの中に浮かぶ“斑の表現”が非常に繊細で、完成度が問われる毛色です。
- 地色は必ず濃色(ブラック/ブラウン)
- 斑は不規則で小さく、濃すぎず・明るすぎず
- 毛の流れと斑の配置が喧嘩せず、自然に見えること
見た目は美しくとも、斑が大きく粗く出すぎたり、明色が優勢になると、構造の印象を崩してしまうため、繊細なバランスが必要です。
また、遺伝的リスクを伴うパターンでもあるため、繁殖には慎重さと責任が求められます。
■ d)ブリンドル──深い赤に浮かぶ“原始の刻印”
ブリンドルは、レッド地に濃い縞が走る独特の表現で、やや希少ですが、野性味・個性・精神性を内包した魅力的な毛色です。
ただし、縞模様が曖昧だったり、マーキングのように見える不明瞭なものは評価が難しく、
“明確な縞”として視認できることが前提となります。
■ シルトクレーテの視点──「毛色の“濃さ”は、命の健全さを映す鏡」
ロングヘアードにおける毛色は、単なる彩色ではありません。
それは、命の内側にある体質・代謝・内分泌・免疫といった“健全性の質”が、色となってにじみ出た結果だと、私たちは捉えています。
そして中でも──
レッドは、もっとも健全な毛色である。
それは単に見た目の美しさではなく、レッドという毛色が優性遺伝であり、犬種本来の機能性と結びついた“もっとも強い命の表現”だからです。
にもかかわらず、レッドの本来の色調を正しく理解していないケースは少なくありません。
- 本来のレッドは、深く、濃く、重みのある色であるべきで、
明るく茶色っぽく退色したような“薄いレッド”は、本来の力強さを失っています。 - ブラックタンやダップルであれば、“タンの濃さ”が命の質を語ります。
タンが薄く曖昧である個体は、被毛の華やかさがあっても生命力の裏付けが乏しいことが多いのです。 - ブリンドルにおいても、重要なのは縞の存在ではなく、“レッドという下地の濃さ”。
下地が浅ければ、縞模様は本来の意味を成しません。
色の濃さは、その犬がどれだけ健やかに作られてきたか──命の在り方そのものを物語る“静かな証”です。
そしてその中でもレッドは、犬種の原点に最も近い色であり、強く安定した体質をもっとも象徴的に示す色であると、私たちは信じています。
日本ではこの“本来のレッド”に対する理解がまだ浅く、見た目の華やかさや珍しさが優先される場面もありますが、
私たちシルトクレーテはあくまで、色とは内なる健全さのあらわれであるという原則に基づいて、犬たちを見つめ、育てています。
【解説⑱】サイズ(Chest Girth / サイズ規定)
サイズ:
生後15カ月で測定したキ甲の最高点から胸の最低点までの胸囲は下記の通りである(巻き尺は多少きつめにする)。● スタンダード・ダックスフンド:
牡:37cm超 ‐ 47cm以下
牝:35cm超 ‐ 45cm以下● ミニチュア・ダックスフンド:
牡:32cm超 ‐ 37cm以下
牝:30cm超 ‐ 35cm以下● カニーンヘン・ダックスフンド:
牡:27cm超 ‐ 32cm以下
牝:25cm超 ‐ 30cm以下
■ ダックスフンドの“サイズ分類”は、体重ではなく胸囲で決まる
まず押さえておきたいのは、JKCおよびFCIにおけるダックスフンドのサイズ基準は「胸囲」によって分類されるということです。
「体重〇kgだからミニチュア/カニンヘン」といった判断は誤りであり、胸囲こそが公式な基準となっています。
またこのサイズは、生後15ヶ月時点の成犬の状態で測定することが原則です。
子犬の段階では、将来どのサイズに落ち着くかを断定することはできないため、成長途中での分類には注意が必要です。
■ 胸囲の測定ポイント──数値の裏にある“骨格の質”を見る
スタンダードでの測定方法にも記されているように、胸囲は「キ甲の最高点から胸の最も低い部分までを巻き尺で測る」のが原則で、
巻き尺は“少しきつめ”に当てることが推奨されています。
これは、被毛や脂肪の厚みに左右されず、骨格そのものの構造を評価するための工夫です。
また、体格が大きく見える犬でも、胸の深さや広さが足りなければ胸囲は伸びません。
つまり、「見た目の大きさ」と「骨格の完成度」は必ずしも一致しないということです。
■ シルトクレーテの視点──「サイズやバラエティにとらわれず、まず健全性を」
私たちシルトクレーテでは、ダックスフンドを「スタンダード」「ミニチュア」「カニンヘン」といったサイズやバラエティで単純に区切って評価することはしていません。
サイズやバラエティの違いよりも、まず見るべきは“その犬が健全であるかどうか”──それがすべての出発点だと考えています。
胸囲の数値はあくまで分類のための目安であって、私たちが重視しているのは、
- そのサイズに、きちんと内臓や筋肉が収まっているか
- 骨格が無理なく整っているか
- 動きにしなやかさと強さがあるか
つまり、犬として、命として、完成された体を持っているかどうかです。
「小さく見せたい」「カニンヘンに収めたい」という意図だけで育成を制限してしまうことは、犬にとって本質的ではありません。
どんなサイズであっても、その犬が健全で、自然体で、美しく生きているかどうか──私たちはそこを見つめて、育てています。
■ スタンダードの改訂について──オスの上限引き上げは“正しい修正”
※補足:
以前のFCIスタンダードでは、オスとメスで胸囲の基準が共通でしたが、現行のスタンダードではオスの上限が2cm引き上げられ、性差を考慮したサイズ規定へと修正されています。
この変更は、オスの方が構造的に骨量・筋量が豊富であることを正しく反映した判断であり、私たちシルトクレーテとしても非常に妥当かつ意義深いものと評価しています。
【解説⑲】欠点・重大欠点(Faults & Severe Faults)
欠点(FAULTS):
上記の点からのいかなる逸脱も欠点とみなされ、その欠点の重大さは逸脱の程度及び犬の健康並びに福利及び伝統的な作業を行うための能力への影響に比例するものとする。
審査の際にはM3(第3後臼歯)は考慮されないものとする。
2本までのPM1(第1前臼歯)の欠歯はペナルティを課さない。
M3以外に欠歯がない場合は、1本のPM2(第2前臼歯)の欠歯は欠点とされる。
ピンサーバイトのような、正しいシザーズバイトから逸脱している場合も欠点とみなされる。
重大欠点(SEVERE FAULTS):
・ 弱々しく、脚が長いもの、もしくはボディが地面を這っているもの。
・ 「欠点」もしくは「失格」で述べられたもの以外の歯の欠点。
・ ダップル以外の毛色に於けるウォール・アイ。
・ 尖って、しっかり折りたたまれた耳。
・ 肩の間に沈んでいるボディ。
・ ホロウ・バック(サドル・バック)。ローチ・バック。
・ 著しく高い後部(キ甲より高い臀部)。
・ 脆弱な胸部。
・ 竪琴状に巻き上がっている脇腹。
・ 角度が乏しい前躯及び後躯。
・ 筋肉が不十分な、狭い後躯。
・ カウ・ホックもしくはボウ・レッグ(バレル・ホック)。
・ 顕著に内外向している脚。
・ スプレイ・トウ。
・ 重く、ぎこちない、よろよろした歩様。
■ 欠点とは──“ズレ”の重大さを見極めるための基準
ダックスフンドのスタンダードは、美しさを競うためのものではありません。
それは“作業犬として機能するための構造と精神”を規定するものです。
欠点とは、スタンダードからの逸脱ですが、すべてが等しく悪いわけではありません。
重要なのは、その逸脱が健康や作業能力にどう影響するか──
そして、それを繁殖という未来に繋げてよいのかという視点です。
■ 歯列に関する評価──“咬み合わせのズレ”は骨格のサイン
歯はただの咀嚼器官ではなく、犬全体の構造的健全性の縮図です。
特に猟犬であるダックスフンドにとって、顎の力、歯列の安定性、咬み合わせの正確さは、「命を支える道具」として欠かせません。
- M3(第3後臼歯):評価対象外。退化傾向にあるため審査から除外。
- PM1(第1前臼歯):2本までの欠如は減点なし。サイズが小さく、機能的影響が小さいため。
- PM2(第2前臼歯):1本でも欠如すれば欠点。咬合安定性に不可欠な中間歯のため。
- ピンサーバイト:前歯が先端のみで接触する咬合。正しいシザーズバイトからの逸脱であり、顎の発育や咬合バランスのズレとして評価される。
これらは、「その犬だけの問題」ではなく、「次の世代に何を残すか」という観点から重く見るべきポイントです。
■ 重大欠点とは──“健全性と機能性”を根本から損なう兆候
■ 弱々しく、脚が長いもの/地面を這うようなボディ
体高が高すぎたり低すぎたりすると、ダックスフンドの持つべき理想の重心バランスが崩れます。
脚が長い個体はダックスらしさを失い、地面を這う体型は骨格のつまり・動きの制限を引き起こします。
■ 歯の重大な欠損
犬歯、切歯、臼歯などの欠損は、咀嚼機能だけでなく、頭部構造や代謝の安定性にも関わる欠点です。
猟犬として「獲物を咥える・持ち帰る・噛み切る」力が欠けているとすれば、それは本質的な資質の欠如といえます。
■ ダップル以外の毛色に見られるウォール・アイ
色素異常や視覚異常の兆候。視力だけでなく、皮膚の弱さや免疫の低さにも関係することがあるため、慎重な判断が必要です。
■ 尖って、折りたたまれた耳
耳の形状は皮膚の柔らかさや表現の質に直結します。自然に丸く垂れる耳が理想で、尖って固く折れている状態は、タイプ不一致・構造の硬さの表れです。
■ 肩の間に沈んでいるボディ/ホロウ・バック/ローチ・バック
背線は「力の伝達ルート」。背中に落ち込みや盛り上がりがあると、可動性が制限され、動きがぎこちなく、疲れやすくなる原因になります。
■ 脆弱な腰(ウエスト)
ウエストに力がなく、くびれすぎたり緩んでいたりすると、体幹の安定性が損なわれます。これは運動機能の低下や内臓下垂、筋力不足を示唆することがあり、長期的な健康維持の観点からも注意が必要です。
❖ 著しく高い後部(キ甲より臀部が高い)
犬体が“前傾姿勢”になってしまい、正しい歩様と力のバランスが崩れます。
“押す”動きではなく“突っ込む”ような動きになってしまいがちです。
■ 脆弱な胸部/竪琴状に巻き上がっている脇腹
心肺の発達に必要な空間が不足しており、持久力の低下・代謝不良・体力の不足と直結します。
■ 前躯・後躯の角度不足/筋肉が乏しく狭い後躯
角度の浅さは可動域の狭さ。筋肉のなさは推進力の弱さ。
どちらも「動かしたとき」に如実に表れ、猟犬としての動作が成立しない体になってしまいます。
■ カウ・ホック/バレル・ホック/脚の内外向
- カウ・ホック:飛節が内側に入り、後足がX字型。推進が弱く、体の軸が安定しない。
- バレル・ホック:飛節が外向きでO脚型。足の外側に負荷がかかり、疲労や故障を起こしやすい。
- 脚の内外向:前後肢問わず、肢の軸が乱れると、関節・筋肉の負担バランスが崩れ、全体の動きに歪みが生まれます。
これらは軽微に見えても、成犬後・老年期に大きな構造的問題へと繋がる兆候です。
■ スプレイ・トウ
趾(指)が開いてしまっている状態で、地面をしっかり掴めません。
猟犬にとって「穴を掘る」「踏ん張る」「滑らないように走る」ための正しい足先の形が維持できていないことは、致命的な機能の欠如といえます。
■ 重く、ぎこちない、よろよろした歩様
歩様は、骨格構造・筋肉・精神の連動で生まれる“犬の完成度の証”。
動きが鈍くバラバラな場合、それは全体の構造不全がどこかにあると見るべきです。
■ ペットとしては問題なくとも──“繁殖の羅針盤”としての欠点評価
ここで挙げた欠点の中には、ペットとしての生活においてまったく支障のないものもあります。
たとえば、歯の一本の欠損などは、日常生活で問題になることはまずありません。
しかし、私たちブリーダーにとっての欠点評価は、
「この特徴を、次世代に遺すべきかどうか」を判断するための指針です。
欠点とは、その犬を否定するための項目ではなく、
「未来に繋げるべき構造かどうか」を見極めるための大切なメッセージ。
私たちシルトクレーテでは、どんなに些細なズレであっても、「犬種の本質から外れていないか?」という視点を持って見つめています。
【解説⑳】被毛の重大欠点(Severe Faults – Coat)
被毛の重大欠点(SEVERE FAULTS – COAT)
《スムースヘアード・ダックスフンド》
- 細過ぎたり、薄過ぎたりする被毛。耳(耳朶)や他に被毛の抜けた部分があるもの。
- 粗過ぎる被毛、長過ぎる被毛。
- ブラシのような尾。
- 部分的もしくは全体的に毛がない尾。
《ワイアーヘアード・ダックスフンド》
- 長毛、短毛にかかわらず柔らかい被毛。
- ボディからあらゆる方向に伸びている長毛。
- カーリーもしくはウェービーな被毛。
- 頭部の柔らかい被毛(トップノット)。
- フラッグ・テイル
- 髭のないもの。
- 下毛のないもの。
- スムースな被毛。
《ロングヘアード・ダックスフンド》
- ボディ全体の被毛が同程度の長さのもの。
- ウェービーもしくはシャギーな被毛。
- フラッグ・テイルが見られないもの。
- 耳に垂れ下がった飾り毛がないもの。
- スムースな被毛。
- 背の被毛がはっきり分かれているもの。
- 趾間の毛が長過ぎるもの。
■ スムースヘアードにおける重大欠点
- 細過ぎる/薄過ぎる被毛
これが遺伝的にそうである場合、本来のスムースコートの質感を持たない個体とされ、犬種的な純度に疑問が生じます。
ただし、健康状態や育成環境に由来する一時的な被毛の乱れもあり、その見極めが重要です。 - 耳やその他部位の脱毛
特に耳朶に毛がない個体は典型的な欠点とされます。遺伝的な被毛形成不全の兆候である場合、将来的な繁殖には適さない可能性が高くなります。
一方で、短毛種ゆえに管理の粗さが脱毛として目立ちやすいため、管理不備による一過性の脱毛との区別も欠かせません。 - 粗過ぎる・長過ぎる被毛
本来の「密に張り付くような短く硬いコート」から逸脱した毛質であり、他毛種との混在を疑うべきタイプ不一致です。
特に長過ぎる場合、構造的な軟さや骨格のゆるさを併せ持っていることもあるため、注意が必要です。 - ブラシのような尾/無毛の尾
尾の毛質は、犬全体の皮膚状態・ホルモンバランス・遺伝背景を表す重要な指標です。
無毛の尾は遺伝的な問題が疑われ、繁殖上は極めて慎重な対応が求められます。
■ ワイアーヘアードにおける重大欠点
- 柔らかい被毛(長毛・短毛にかかわらず)
ワイアーの本質である“針金状で密に詰まったコート”を欠いており、このタイプはすべて遺伝的な欠陥と捉えるべきです。
皮膚の保護機能が低く、湿気・外傷・虫刺されに対して無防備になる構造でもあります。 - あらゆる方向に伸びる長毛/カーリー・ウェービーな被毛/トップノット
これらすべてはワイアー種としての純粋性を損なうものであり、スムースやロングの血が入った可能性を含めて排除対象とすべき特徴です。 - フラッグ・テイル/髭の欠如/下毛がない/スムースな被毛
ワイアーにおけるこれらの欠如は、外見的な問題にとどまらず、犬種の“機能的本質”を失っている状態と考えられます。
とりわけ髭や下毛の欠如は、典型的な遺伝的な表現異常であり、ブリーディングには不適です。
■ ロングヘアードにおける重大欠点(修正版)
- ボディ全体の被毛が同じ長さ
本来、ロングヘアードは飾り毛とベースのコートにメリハリがあり、流れるようなラインを形成します。
全体が均一な長さというのは、ロング本来のスタイルから逸脱しており、骨格の緩さや体質の柔らかさを伴うこともあるため注意が必要です。 - ウェービー/シャギーな被毛
このような毛質は、見た目の印象が粗くなるだけでなく、癖の強い毛質を持つ血統的傾向の現れと考えられます。ロングらしいシルキーで癖の少ない毛質が理想です。 - フラッグ・テイルの欠如
尾の裏側に滑らかに流れる被毛は、ロングヘアードらしさを象徴するポイントです。
これが見られない場合、尾だけでなく全体の被毛バランスや犬種的純度に影響がある可能性もあり、軽視すべきではありません。 - 耳の飾り毛がない
飾り毛はロングらしさを際立たせる大切な要素です。このパーツが不足している場合は、他の飾り毛にも未発達な傾向がないか慎重な確認が必要です。 - 背の被毛がはっきり分かれる
毛の癖や長さのアンバランスが原因で、背中の被毛が左右に割れるように分かれてしまう状態。被毛構造の乱れとして注意すべきサインです。 - 趾間の毛が長すぎる
ケア不足だけでなく、体質の緩さや被毛形成に関わる遺伝的傾向を示すこともあります。特にロングヘアードでは慎重な見極めが求められます。
【解説㉑】失格(Disqualifying Faults)
失 格(DISQUALIFYING FAULTS)
・攻撃的または過度のシャイ。
・肉体的または行動的に明らかに異常なもの。
・非典型的な個体。
・アンダーショット、オーバーショット、ライ・マウス。
・下側の犬歯の位置が正しくないもの。
・1本以上の犬歯の欠歯。1本以上の切歯の欠歯。
・1本以上の PM(前臼歯)もしくは M(後臼歯)の欠歯。
※例外:「欠点」で述べたようにM3を考慮に入れない2本までのPM1または1本のPM2。
・胸:胸骨が中断しているもの。
・尾に関するいかなる欠点。
・非常にゆるい肩。
・ナックリング・オーバー。
・タン・マーキングがないブラックまたはブラウンの犬。
・タン・マーキングの有無にかかわらず、ホワイトの犬。
・「毛色及び毛色パターン」に記載されている以外の毛色及び毛色パターン。注意:
・牡犬は明らかに正常な2つの睾丸が陰嚢内に完全に下降していること。
・機能的かつ臨床的に健全であり、その犬種のタイプを有している犬のみが繁殖に使用されるべきである。
■ “失格”とは、ダックスフンドとしての根本的否定である
失格とは、「たまたまそうだった」ではなく、ダックスフンドという犬種として成立していない・維持してはならない特徴を指します。
その多くが、構造的な破綻・重度の遺伝的欠陥・性格面での深刻な逸脱に起因し、繁殖には一切使うべきではない個体と断言されます。
■ 気質・行動の異常
- 攻撃的または過度にシャイな性格
犬種本来の「落ち着き」「友好的で安定した精神」を欠いた気質は、社会的なトラブルや飼育困難に直結します。
本質的な精神性の健全さを欠いた個体は、ドッグショーにおいても家庭犬としても不適格です。 - 行動・肉体における明らかな異常
歩行異常、平衡感覚の欠如、意図しない反応や行動パターンなど──いずれも神経系や骨格形成の根本的な異常が疑われます。 - 非典型的な個体
スムースなのに被毛が長い、ロングなのに飾り毛がない…といった犬種的な識別が難しい外貌の個体はタイプミスとみなされ、失格対象となります。
■ 歯列・咬合の重大な欠陥
- アンダーショット/オーバーショット/ライ・マウス
咬み合わせが完全にズレており、骨格構造・頭部形成・咀嚼能力の異常を示します。単なる“歯の問題”ではなく、構造不全の証拠です。 - 下側の犬歯の位置異常/犬歯・切歯・PM・Mの欠損(M3除く)
1本でもこれらの歯が欠けている場合、骨格発育や遺伝的健全性に重大な懸念があると判断され、即失格とされます。
■ 構造的な異常
- 胸骨の中断
胸骨が途中で切れている、連なっていないなどの異常は、内臓の保護・肋骨形成・体幹の強さすべてに関わる重篤な構造異常です。 - 尾に関するいかなる欠点
尾の形状に明らかな異常が見られる場合、特に成長過程で後天的に生じた湾曲や変形は、骨格や神経の発育不全を示す可能性があり、繁殖には用いるべきではありません。。 - 非常にゆるい肩/ナックリング・オーバー(手根が落ちて立てない)
これらは骨格保持力や筋力・腱の異常を表しており、日常の生活すら困難になる恐れもあるため、繁殖以前の問題として扱われます。
■ 毛色・マーキングの異常
- ブラックまたはブラウンの犬でタン・マーキングが無いもの
これは毛色パターンの重大な逸脱であり、ダックスフンドとしての表現型を保っていない個体とされます。 - タン・マーキングの有無にかかわらず、ホワイトの犬
白一色のダックスフンドは、遺伝的に重大な色素形成の異常を含んでいる可能性があり、犬種として認められません。 - 規定外の毛色・パターン
スタンダードで明記された以外の毛色(たとえばブルー系、イザベラ系、クリーム系・パイボールド系など)はすべて犬種としての整合性を失っており失格です。
■ 生殖・繁殖に関する条件
- 牡犬における睾丸の未下降(片側・両側)
これは遺伝的要因が強く、繁殖に使えば高確率で次世代にも影響を残すため、国際的に厳格な失格理由となっています。 - 機能的・臨床的に健全でない個体は繁殖不可
ショーの評価以前に、「生物としての健全性」に欠ける個体は、犬種全体の未来にとっても大きなリスクとなるため、断固として繁殖対象からは除外すべきです。
■ ペットとしての幸せと、ブリーディングとしての責任
たとえば「歯の欠損」や「尾の軽微な異常」は、繁殖上は注意すべき要素であっても、ペットとして暮らすには全く支障がないことがほとんどです。
むしろ、どんな欠点があっても、その子がどんな環境で、どれだけ大切にされているかの方が、はるかに大切だと私たちは考えています。
ブリーディングとは、犬を評価することではありません。
未来の犬たちをより良い形で残すという責任を果たす行為です。
そのために「欠点」や「失格」は、命を否定するものではなく、命を守るための一つの基準だと、私たちは捉えています。
■ 全項目を読んでくださった皆さまへ──
ここまで読み進めてくださった方に、心からの敬意を表します。
ブリードスタンダードとは、単なる「見た目の基準」ではなく、
命の本質を見つめるためのレンズです。
どの項目も、一つひとつが
「なぜそれが大切なのか?」
「犬のどこを見れば、それがわかるのか?」
という問いと向き合うために存在しています。
この解説を通じて、
ダックスフンドという犬種の深さと奥行き、そして未来を守るという視点に、少しでも触れていただけたなら幸いです。
私たちシルトクレーテは、
この犬種の持つ本来の美しさと健全さを次の世代へと繋げていくために、
これからも日々、真摯に向き合ってまいります。
