PRA(進行性網膜萎縮症)について

── 犬と人の未来を守る、私たちの選択

PRA(Progressive Retinal Atrophy/進行性網膜萎縮症)は、
遺伝的な要因によって網膜が徐々に萎縮・変性していき、最終的には失明に至る可能性が高い病気です。

痛みや炎症を伴わないため、外見上は元気に見えることも多く、
「気づいたときには視力が大きく失われている」というケースも少なくありません。

この病気は進行性であり、
一度発症すると、現時点では完治させる治療法は存在しないという現実があります。


PRAはどのように進行するのか

PRAの進行には個体差がありますが、
多くの場合、次のような段階を経て進みます。

初期に見られやすいサイン(夜盲症)

  • 暗い場所や夕方以降の散歩で動きがぎこちなくなる

  • 物や段差にぶつかるようになる

  • 夜のお散歩を嫌がる、立ち止まることが増える

この段階では、
「性格の変化」「慣れの問題」と誤解されることもあります。

しかしこれは、暗所で視力が低下しているサインである可能性があります。


中期〜後期の変化

進行すると、明るい場所でも視力が低下し、
最終的には完全に視力を失うケースもあります。

犬は嗅覚や聴覚に優れているため、
視力を失っても日常生活はある程度続けられます。

ただし、
それは「見えなくても生きられる」という意味ではありません。

見えない世界で暮らすことは、
犬にとっても、人にとっても、大きな負担を伴います。


PRAは「防げる遺伝病」です

PRAの最も重要な特徴は、
発症してから治す病気ではなく、発症する前に防ぐことができる病気であるという点です。

現在では、
PRAの原因となる遺伝子が特定されており、
遺伝子検査によって発症リスクを事前に知ることが可能です。


遺伝子検査の結果と意味

遺伝子検査の結果は、主に次の3つに分類されます。

検査結果意味注意点
クリア(ノーマル)異常遺伝子を持たない発症せず、遺伝もしない
キャリア異常遺伝子を1つ持つ保因者自身は発症しないが、交配相手に注意が必要
アフェクテッド異常遺伝子を2つ持つ発症が確定。子孫に確実に遺伝

ここで大切なのは、
キャリア=発症する犬ではないということです。

問題になるのは、
どの遺伝子同士を組み合わせるかという、人の判断です。


正しい交配選択が、発症を防ぐ

PRAは、交配の組み合わせによって、
生まれてくる子犬が発症するかどうかが明確に決まります。

  • クリア × クリア
     → すべてクリア。理想的な交配

  • キャリア × クリア
     → 発症なし。子犬は50%の確率でキャリア

  • キャリア × キャリア
     → 25%の確率でアフェクテッド
    避けるべき交配

  • アフェクテッド × クリア
     → 子犬はすべてキャリア
     → 発症はしないが、次世代に確実に遺伝するため、繁殖は極力避けるべき

  • アフェクテッド × キャリア
    → 子犬の50%がアフェクテッド、50%がキャリア
    → 発症個体が高確率で生まれるため、繁殖すべきではない

  • アフェクテッド × アフェクテッド
     → 子犬は100%アフェクテッド
     → 遺伝病を確実に生み出してしまうため、繁殖すべきではない


一度発症してしまった命を、
後から取り戻すことはできません。

だからこそ、
「発症しない組み合わせを選ぶ」ことが、繁殖に関わる人間の責任だと私たちは考えています。


日本のダックスフンドが抱える現実

日本は、ダックスフンドの飼育頭数・登録数において、
世界的に見ても非常に規模の大きな国です。

しかしその一方で、
PRAをはじめとする遺伝性疾患が多く見られる現実があります。

その背景には、

  • 十分な知識を持たないまま行われる繁殖

  • 利益を優先した無計画な交配

  • 遺伝子検査の重要性が正しく理解されていない現場

といった問題が存在しています。

これは特定の誰かを責める話ではありません。
「知らなかった」「学ぶ機会がなかった」結果として起きている問題でもあります。


命は「人の選択」に委ねられている

野生動物の世界では、
自然淘汰によって、強い遺伝子だけが次世代へ残っていきます。

しかし犬の繁殖は、
すべて人の手によって管理され、選択されています。

つまり、
どんな命が生まれるかは、
人間の知識と判断に委ねられているということです。

だからこそ私たちは、
「かわいい」「スタイルが良い」といった表面的な評価だけでなく、
未来の健康と次世代への影響まで含めて考える責任があると考えています。


シルトクレーテの姿勢と実践

私たちは、
遺伝子検査を実施し、
クリア、または慎重に判断した組み合わせのもとでのみ繁殖を行っています。

それは制限ではなく、
未来の犬たちを守るための選択です。

売るための繁殖ではなく、
犬が人と無理なく、長く、幸せに暮らせること。

そのために必要なことを、
一つひとつ積み重ねていくことこそが、
ブリーダーとしての本質だと私たちは信じています。


最後に

PRAの発症は、決して運ではありません。
そして、遺伝病で苦しむ子犬が生まれるかどうかは、
私たち人間の「知識」と「選択」にかかっています。

どうか、この病気の存在を知ってください。
そして、命のバトンをつなぐために必要なことを、
一緒に学び、考え、選んでいけたらと願っています。