②-4【子犬ケア】新生児期の管理と観察

小さな命を、“整えずに見守る”という選択


導入

子犬が生まれた瞬間から始まるのは、「育てる」ではなく「観る」時間です。
呼吸、体温、吸う力、鳴き声──すべてがその子の生命力を映しています。

トラストブリーディングでは、この時期を“静かに見守る期間”と位置づけています。
手を加えすぎず、放っておきすぎず。
自然のリズムを壊さずに、命の流れを感じ取る。
それが、新生児ケアの根幹です。


理念・考え方

子犬は生まれながらにして、生きる力を持っています。
人がすべきことは、その力が滞らないように見守ることです。

トラストブリーディングにおける新生児ケアの中心は、
“管理”ではなく“理解”。
数値ではなく、観察によってその子の個性を読み取ることです。

  • どのように母乳を吸うか
  • どの兄弟と寄り添うか
  • 音や光にどう反応するか

それらの中に、「その子らしさ」がすでに現れています。
命を“整える”のではなく、“受け入れる”。
それが、トラストブリーディングのケアの基本姿勢です。


実践内容

  • 体温管理
     生後間もない子犬は、自分で体温を調整できません。
     母犬の体温と環境の温度を合わせ、産箱内を26〜28℃前後に保ちます。
     人工的な保温機よりも、母犬との接触熱を優先します。
  • 授乳の観察
     授乳は「量」ではなく「リズム」を見ます。
     強く吸う子、ゆっくり飲む子、それぞれに個性があります。
     母犬が授乳を促すタイミングを尊重し、人は必要に応じてサポートするに留めます。
  • 体重と成長の記録
     必要に応じて、体重を測定。
     数値は大切ですが、増減だけで一喜一憂せず、全体の行動や元気さと合わせて判断します。
  • 衛生管理
     産箱の清潔を保ちつつ、母犬や子犬の匂いを消さないことを重視しています。
     1日2回の清掃時には、状況に応じて部分的に消毒を実施し、感染リスクを防ぎます。
     ただし、強い薬剤や香りの残る製品は使用せず、
     犬たちが安心できる“自然な清浄”を保つことを優先しています。

 「清潔=無菌」ではなく、「清潔=調和」。
 命を守るための現実的なケアを行いながら、
 環境全体の“空気の安定”を意識しています。

  • 観察と記録
     すべての記録は、「比較」ではなく「理解」のために行います。
     兄弟の中での動き、鳴き声、母犬への反応──
     それらを丁寧に記し、後の成長段階へと繋げていきます。

シルトクレーテの基準と哲学

1. 「命を整えようとしない」
 子犬を“型”にはめず、自然の形で発達を待つ。

2. 「静かな時間こそ育ちの時間」
 触れるよりも、観る。
 音をかけるよりも、沈黙の中で呼吸を聴く。

3. 「匂いの記憶を残す」
 母犬・兄弟・人、それぞれの匂いを通じて、
 社会性の原型が形成されていく。

4. 「観察は愛情の形」
 過保護でも放任でもない、ちょうどいい距離。
 その中にこそ、ブリーダーとしての誠実さが宿る。

5. 「兄弟との関係を育てる」
 兄弟の中で押されたり譲ったりする経験が、
 心のバランスをつくる。
 人では教えられないことを、群れが教えてくれる。


トラストブリーディングの視点

トラストブリーディングとは、
“育てる”よりも、“育っていく環境を整える”こと。

人が手を加えるよりも先に、
犬たちはすでに命のリズムを持っています。

そのリズムを壊さないように――
光、音、温度、空気、そして人の気配。
それらすべてが「育つ環境」をつくります。

子犬ケアとは、命の“バランスを保つ仕事”。
それは、最も繊細で、最も静かなブリーディングの時間です。


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子犬が少しずつ体を動かし、目を開け、
自分の世界を感じ始める頃――
ブリーダーの見守りは“昼夜を越える”ものになります。

次の章では、夜を含めた24時間体制でのサポートと、
命を支える覚悟についてお話しします。

次へ:②-5【夜を越えて】24時間体制の見守りと信頼


まとめ

子犬を「管理する」という言葉の裏には、
本来、“命を感じ取る”という意味が隠れています。

データではなく、観察。
効率ではなく、調和。
子犬の小さな呼吸と動きに耳を澄ませながら、
その日その瞬間を大切に積み重ねていく。

それが、トラストブリーディングにおける
「子犬ケア」という哲学です。