③-3【人との信頼】共に暮らすための距離感を育てる

支配ではなく、信頼でつながる関係


導入

群れの中で社会性を学び、遊びの中で心と体のバランスを整えた子犬たちは、
やがて“人”という存在と出会います。

その最初のきっかけは、離乳食の始まる頃──およそ生後25日あたりです。
この時期、子犬たちは初めて人の手から食事を受け取り、
人の匂い・声・動きを「安心と結びついたもの」として認識していきます。

ここから始まるのは、「人に慣れる」段階ではなく、
人と心でつながるための準備です。

トラストブリーディングでは、人との関係づくりを
「距離感の教育」としてとらえています。
近づきすぎず、離れすぎず、
お互いが安心できる範囲を見つけること。

それが、犬と人が共に生きていくための“信頼のかたち”です。


理念・考え方

犬にとって、人は「リーダー」ではなく、「共に生きる仲間」です。
だからこそ、信頼関係の基礎は支配や命令ではなく、尊重と一貫性の上に築かれます。

信頼とは、時間をかけて積み上げる“静かな絆”。
一度に深めるものではなく、日々の繰り返しの中で形づくられていきます。

私たちは、触れること・声をかけること・待つこと、
その一つひとつに意味があると考えています。
犬の心が開くリズムを尊重し、無理に踏み込まない。
その“間”にこそ、信頼の芽が育ちます。


実践内容

触れ方を学ぶ
 スキンシップは量ではなく質。
 犬が受け入れるタイミングを見極め、安心を感じたときだけ軽く触れる。
 「触らせる」ではなく「触れても大丈夫」と思える瞬間を大切にします。

声のトーンを整える
 犬は言葉よりも、声の“波”を感じ取ります。
 落ち着いた声のリズムが、心の安定を支えます。
 命令口調ではなく、穏やかな呼びかけが信頼を育てます。

アイコンタクトの意味
 じっと見つめるのではなく、
 ふと目が合った瞬間に「安心」が通い合う関係を目指します。
 その短い一瞬が、信頼の確認になります。

待つという行為
 信頼関係の中で最も難しく、最も大切なのが“待つ”ことです。
 焦らず、静かに待つことで、犬は人の穏やかさを感じ取ります。
 それは、言葉ではない“心の会話”です。

リードの感覚
 引くでもなく、緩めるでもない。
 リードは「つながりの象徴」として扱います。
 お互いに意識を共有しながら歩くことで、
 犬は“共に進む”という感覚を覚えます。


シルトクレーテの哲学

信頼は、一方的な好意では生まれません。
それは、犬と人の双方が「相手を尊重する姿勢」を持つことから始まります。

私たちは、犬を従わせるのではなく、
犬の目線を通して世界を理解しようとします。
その姿勢こそが、真のリーダーシップだと考えています。

犬が安心して自分を委ねられる関係。
それは、厳しさと優しさ、静けさと温もりが同居した関係です。

“トラスト”という言葉には、「信じて任せる」という意味があります。
それは犬に対しても、人に対しても、
命に対しても同じです。


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人との信頼関係が深まると、
犬はリードがなくても落ち着いて動けるようになります。
次の段階では、自由の中で自制を学ぶ「ノーリード練習」へ進みます。

→ ③-4【ノーリード練習】自由の中で自制を覚える


まとめ

犬と人の関係は、教え込みではなく、呼吸の一致から始まります。
そのためには、相手を理解しようとする時間と余白が必要です。

信頼とは、支配でも依存でもなく、
お互いが自然に安心できる関係のこと。

トラストブリーディングが大切にしているのは、
「寄り添いすぎない優しさ」と「離れすぎない静けさ」。
その中にこそ、本当の信頼があります。